福岡地方裁判所 昭和58年(ヨ)232号
債権者
北村哲雄
同
淵上孝文
右両名訴訟代理人弁護士
津留雅昭
債務者
株式会社フクニチ新聞社
右代表者代表取締役
頭山立國
右訴訟代理人弁護士
谷本二郎
主文
債務者は債権者らに対し各金三〇万円を仮に支払え。
債権者らのその余の申請を却下する。
申請費用は債務者の負担とする。
理由
一 債権者らの本件仮処分申請の趣旨及び理由は別紙一記載のとおりであり、これに対する債務者の答弁及び主張は別紙二記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 債務者は日刊新聞の発行を主たる業務とする株式会社であって肩書地(略)に本社・工場を置き、現在「フクニチ新聞」、「フクニチスポーツ」の二紙を刊行している他、「福岡市政だより」等を受託印刷していること、従業員は約二七〇名で、内約一六〇余名が日本新聞労働組合連合傘下の「フクニチ労働組合」(以下「組合」という)を結成していること、債権者北村は、昭和四五年四月に債務者に入社し、校閲部・調査部等を経て現在整理部に在籍しており、この間、組合の青年婦人部書記長、中央委員、執行委員などを経験していること、債権者淵上は、昭和四八年四月に入社し、校閲部を経て現在整理部に在籍しており、組合歴としては青年婦人部委員、中央委員、執行委員などを経験していること、債務者は昭和五八年二月一八日付をもって、債権者らを就業規則八九条四、七号等に該当するとして三か月の懲戒休職処分(以下「本件各処分」という)とし、その後の賃金を支払わないことは当事者間に争いがない。
2 疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば次の事実が一応認められる。
(一) 債務者の経営は昭和三五年ころから新聞の発行部数の減少が続き、販売収入、広告収入が減少したため、昭和四六年度以降は赤字決算となり、年を追う毎に累積赤字が増大していき、従業員に対する賃金の欠配、遅配、一時金の低額回答が続くようになった。
債務者は、経営陣を交替し、再建委員会等を設置して種々再建案を作成し、再建しようとしたがうまく行かず、結局昭和五七年二月一六日現代表者の頭山立國(以下「頭山社長」という)を社長に迎えて経営陣を刷新し、新体制のもとで再建しようとした。
組合はかねてから民主的再建運動を展開し、債務者の再建案に対し一定の協力をしていたが、頭山社長の就任に際しては同人の希望により組合も同人の社長就任を望む旨の要請書を同月二二日提出し、新体制に協力する旨の意思を表明した。
(二) 債権者らは、組合の執行部が民主的再建運動と称して債務者に対し徹底的に対決することなく、債務者の再建案に協力する姿勢をとっていることを批判して昭和五〇年五月八日「フクニチ組合を強くする会」(以下「強くする会」という)を結成し、以後債務者及び組合の方針、姿勢等を批判するビラを作成し、債務者の従業員に配付したり、所定の掲示場所以外の場所に債務者に無断で掲示するようになった。
右ビラの配付及び掲示は当初は月一回くらいの割合であったが、次第に頻繁となり、昭和五七年からはほとんど毎日のようになった。昭和五七年からの内容は、頭山社長の就任を「フクニチの身売り」、「頭山の乗っ取り」であるとして反対、頭山社長を右翼思想の持主であるとして新聞の右傾化反対、要請書を出したこと等頭山社長に協力する組合執行部に対する批判等がその主なものとなっている。
(三) 債務者は債権者らの前記行為は就業時間内に所定の掲示場所以外において無断で行なわれていること、「強くする会」の活動は正当な組合活動に基づくものではなく、ビラの内容は債務者及び組合を非難、攻撃、中傷、誹謗し、名誉、信用を毀損し、社内の規律秩序を乱すものであるとして懲戒事由に該当すると判断し、昭和五八年二月一八日本件処分をした。
3 債権者らは本件各処分は労働協約に反する違法なものであると主張しているので、この点について判断する。
疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば次の事実が一応認められる。
(一) 債務者と組合との労働協約には、人事一般について六条に「会社が人事を行うときは、解雇は三〇日前、その他は七日前に理由を付して組合及び本人に通知する。」、七条に「組合は会社が行なう組合員の人事に不満があるときは、異議を申立てることができる。異議の申立のあったときは会社は組合と協議する。」、八条に「七条に基づいて異議を申立てるときは、通知を受けた日から七日以内とし、この期間内に申立のないときは、異議がないものとする。異議事項に関する協議の期間は、原則として申立て日より七日以内とする。」と定められている。
そして懲戒休職の手続については、一一条四号で一六条、一七条の規定によると定められており、一六条には「会社は別に定める賞罰委員会に諮問して従業員の賞罰を行う」、一七条には「会社が組合員を懲戒するときは、発令の七日前にその理由を付して組合に通告する。組合がこれに異議のある場合は異議の申立ができる。異議申立については、会社は組合と協議する。」と定められているが、別に賞罰委員会規定が設けられ、構成、手続等について規定されており、一〇条には特に「懲戒事案を審議する場合、委員長は日時を指定して本人の出席を求め釈明させることができる。」と定められている。
(二) 債務者は前記賞罰委員会規定に基づき昭和五八年二月八日賞罰委員会を設置した。同委員会は同月九日開催され本件事案について審議をしたが、債権者らの出席を求め釈明させる必要を認めず、債権者らの弁解を聞く手続をとらずに、懲戒休職三か月が相当であるとの意見を答申した。債務者は右答申に基づき債権者らに対し懲戒休職三か月の処分を決定した。
債務者は二月一〇日組合に対し本件各処分をする旨の予告通知をすると同時に本件処分すべき内容を社内報で一般従業員に明らかにし、同月一四日には組合と団交を開いた。
組合は同月一七日本件各処分に異議があり、協議の継続を要求する旨の異議申立書を債務者に提出した。
債務者は右異議申立書は同月一七日の勤務時間の終了後である午後八時三〇分ころ受け取ったものであり、適法な異議ではないとして、組合と協議することなく同月一八日債権者らに対し本件各処分の発令をした。
4 右事実を基にして本件各処分をするに至った手続の適法性について検討するに、組合の異議申立期間は労働協約八条によれば通知を受けた日から七日以内とされていることは前記認定のとおりであり、民法一四〇条、一四一条に従い異議申立期間の満了は二月一七日の終了する午後一二時であるから、組合の異議申立は適法なものであり、債務者は労働協約八条により異議申立より七日以内の協議期間を置かねばならない。
思うにこのような事前協議条項がある場合には、組合の異議申立が適法である以上、債務者は組合と本件各処分について誠実に協議しなければならず、この協議を全く欠いて二月一八日に本件各処分を発令することは許されず、本件各処分はその効力を生じないものというべきである。従って本件各処分はその余の点を判断するまでもなく無効であると認められる。
5 当事者間に争いのない事実、疎明資料及び審尋の全趣旨を総合すれば、債務者が本件各処分発令後賃金を支払わないこと、債権者北村の昭和五八年一月分の賃金は一五万四六六六円であり、債権者淵上のそれは一五万二四七七円であること、債権者らは会社から支払われる賃金を唯一の生活の資とする労働者であって格別の資産を持たず、休職期間中は借金をしたり、カンパを受けたり、アルバイトをしたりして生活を維持したこと、現在は休職期間が満了し、職場に復帰していることが一応認められる。
右事実を総合考慮すれば、債権者らは現在休職期間が満了し、職場に復帰しているので、債権者らの本件各処分の効力を仮に停止する旨の申請については必要性がないものと認められ、賃金仮払の申請については債権者らに対して各金三〇万円の限度で仮払いを認める必要性があり、その余の仮払の申請は必要性がないと認められる。
6 以上により本件仮処分申請は主文第一項掲記の限度で理由があるので保証を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がないので却下することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 草野芳郎)
別紙一
第一 申請の趣旨
一、債務者が、昭和五八年二月一八日債権者らに対してなした、懲戒休職処分の効力を仮に停止する。
二、債務者は、昭和五八年二月一八日から昭和五八年五月一七日までの間、当月一日から末日を一か月として
(一)、債権者北村に対して金一五万四六六六円
(二)、債権者淵上に対して金一五万二四七七円
の月額割合による金員を仮に支払え。
第二 申請の理由
一 当事者
1 債務者は、日刊新聞の発行を主たる業務とする株式会社であって肩書地に本社・工場を置き、現在「フクニチ新聞」、「フクニチスポーツ」の二紙を刊行している他、「福岡市政だより」等を受託印刷している。従業員は、約二七〇名で、内約一六〇余名が、日本新聞労働組合連合傘下の「フクニチ労働組合」(以下「組合」という)を結成している。
2 債権者北村は、昭和四五年四月に債務者に入社し、校閲部・調査部等を経て現在整理部に在籍しており、この間、組合の青年婦人部書記長、中央委員、執行委員などを経験している。債権者淵上は、昭和四八年四月に入社し、校閲部を経て現在整理部に在籍しており、組合歴としては、青年婦人部委員、中央委員、執行委員などを経験している。
二 懲戒休職処分
債務者は、昭和五八年二月一八日付をもって、債権者らを就業規則八九条四、七号(職場の秩序を乱した等)等に該当するとして、三か月の懲戒休職処分(以下「本件各処分」という)とし、その後の賃金を支払わない。
三 本件各処分の違法性
1 手続違背
(一)、債務者と組合との労働協約によると、組合員を懲戒する場合には、賞罰委員会に諮問して(労働協約一六条)、処分発令の七日前に理由を付して組合に通告する(一七条)ものとされていた。しかるに、債務者は、二月一〇日組合に債権者らと申請外小野ら三名の処分を発令する旨の一応の通告をしたものの、その理由を明らかにせず、同月一四日の団交にいたってようやく明らかにした。又、賞罰委員会についても、事前に行なわれたと債務者は言うものの、その日取りや委員名等も一切公表されていない。これは、従前の労使慣行に反する。又、賞罰委員会においては、被懲戒者本人を聴聞したうえで処分を決する建前であるのに、本件では、債権者ら本人には何らの事前連絡もなく、弁明の余地を全く与えない一方的処分であった。
(二)、労働協約によると、組合が組合員の処分に異議あるときは、異議の申立ができる(労働協約一七条)ので、組合は、一七日に(1)処分理由があいまいである、(2)賞罰委員会での本人の事情聴取が行なわれていない、(3)組合通知の翌日に社内報で発表したり、協議期間中である一七日に辞令交付を行うなどの行為は前例のないものであり、異常であるとして、異議申立をして継続審議を申し込んだが、その後の団交について債務者は「被処分者出席の団交には応じない」として、団交を拒否しているため、協議ができない状態が続いている。組合は、債務者の右団交拒否に対して、福岡地方労働委員会に斡旋を求める申立をして、現在斡旋中である。
(三)、処分の前後における労働協約や従前の労使慣行を無視した債務者の本件各処分のやり方は、全く異常そのものであって、それだけでも本件各処分の無効は明白とさえいえる。
2 不当労働行為
(一)、債務者は、ここ十数年来慢性的な経営の赤字が続いており従業員に対する賃金すら支給されない状態が続いている。フクニチ「再建」と称して、昨年二月一六日、頭山立國現社長が代表取締役社長に就任するが、それ以来、債務者の組合運動への介入と労働者への抑圧が露骨さを増した。春闘賃上げは、わずかに四五四四円、夏の一時金三万三千円、冬の一時金ゼロさらには、相次ぐ賃金の欠配、遅配が続いた。又、債務者は、団交を拒否するなど、それまでの労使慣行を平然と変えるようになった。
(二)、とくに、今年に入っても一月の賃金は遅配し、二月七日は組合との労働協約・諸協約、職場慣行の破棄を一方的に通告して、その暴挙は頂点に達する。これに対し、一組合員が抗議の一日座り込みを行うなど、組合員らの怒りも限界に達してきていた。その矢先の二月一〇日、前述の如く手続を無視した処分通告がなされるに及んだのである。
(三)、債権者北村は、組合の現執行委員であり、同淵上も執行委員等の役員経験者として、ともに積極的に組合活動に参加してきたものである。債権者らは、昭和五〇年に組合員らで作られた「フクニチ組合を強くする会」(以下「強くする会」という)に参加してきた。右「強くする会」は、フクニチに働く労働者の生活と権利を守るために、組合に対して積極的にこれを批判し、あるいは、参加していって組合を強化することを目的としていた。「強くする会」は、これまで組合選挙への立候補や日常的にはビラ等による教宣活動も継続してきている。今回の処分は右の趣旨から、「強くする会」の中心メンバーである債権者らに対する抜き打ちの攻撃であることは明白である。懲戒処分理由として「不法ビラ配布」をあげているが、それらはすでに「強くする会」結成から八年近くにわたって続けられてきた活動でありその内容も、賃金等を中心に「会社経営」に関する批判、教宣活動の範囲を超えない、あくまで労働組合運動の一環であって何ら違法のものではない。
(四)、本件各処分によって、債権者らは会社屋内への立入を禁じられ、又、ビラの配布を禁じられた結果、組合活動も全くできぬ状態であり、債務者の意図が、債権者らの正当な組合活動を封じ込める意図からなされたものであることは、その経緯から明白である。よって不当労働行為として、本件各処分は無効である。
3 懲戒権の濫用
前二項に述べたとおり、本件各処分は、労働協約上の手続に違背するばかりか、実質的に労働運動に対する弾圧を意図になされた恣意的処分に外ならず、懲戒権の濫用も甚しい。
四 保全の必要性
1 債権者らは、この不法処分の撤回を求めて他組合員らに訴えており、又組合も不当処分として債務者を追求しているが、債務者は頑迷に交渉を拒否しており、今なお顕著な前進をみられないでいる。
2 債権者らは、いずれも独身である。債権者北村は、母と妹と同居しており、各々のわずかの収入をもちよって生計を立てている。債権者淵上は、親元を離れ間借り生活であるが、これとて低い賃金のため、生活を維持するのがやっとである。ボーナスも低額のうえ、遅配が多いことから、労金等から借金をしながら、何とか生活をしている現状は、債権者ら共通である。
3 そこで債権者らは、この不法な懲戒処分を争うべく本訴の提起を準備中であるが、休職期間中は賃金は支給されないので日々の生活にすら事欠く有様であって、又、組合活動もできない状態であるなど、本訴をまっていては回復し難い損害を蒙るおそれがある。因みに、債権者北村の、処分直前の五八年一月分の賃金は、合計一五万四六六六円、同淵上のそれは金一五万二四七七円である。
五 よって債権者らは、本件各処分の効力を仮に停止することを求めるとともに、債務者が申請の趣旨記載の賃金の仮払をするよう求めて、本申立に及んだ。
別紙二
第一 申請の趣旨に対する答弁
債権者らの申請を却下する。
申請費用は債権者らの負担とする。
第二 申請の理由に対する答弁
申請の理由一、二は認める。同三、四は否認する。
第三 債務者の主張
一 債権者らの地位
1 債権者北村は、昭和二六年八月一六日生れで、昭和四五年四月一日債務者に入社した。債権者淵上は、昭和二六年一月一四日生れで、昭和四八年四月一日債務者に入社した。両名とも当初から現在に至るまで引続き編集局内の諸種のポストを閲歴している。
2 債権者らは、債務者に存在する唯一のフクニチ新聞労働組合(以下「組合」という)の組合員であり、同組合はユニオン・ショップ制を採用していて、総評加盟の日本新聞労働組合連合に所属している。
二 債権者らの本件各処分の対象となる行為とその違法性
1 債権者らは、組合員である以上、組合活動については、組合の統制に服すべき当然の権利義務があるものといわなければならない。
しかるに、債権者らは、昭和五〇年ころから組合の承認しない「ビラ」を勝手に作成して債務者以外の場所において不特定人等に対し、あるいは債務者内で従業員に配布又は債務者内の所定の掲示場所以外の場所に無断で掲示し始めた。当初は月一回位の配布及び掲示であったが、その後次第に頻繁となり約一年位以前からはほとんど毎日のようになった。そして「ビラ」の発行者名はすべて「フクニチ組合を強くする会」(以下「強くする会」という)と記載されてあるが、それが債権者らの行為であることは諸証拠によって明らかであり、「ビラ」の掲載内容は、ほとんどが債務者を非難、中傷し、時には役員を誹謗し、あるいは根拠のないデマ宣伝を行ったりするものであるから、その「ビラ」が配布及び掲示されることによって、対外的には債務者の名誉、信用を著しく失墜せしめるものであり、対内的には債務者の規律秩序を乱すとともに従業員を刺激、扇動せしめる効果をもたらすことは確実である。
2 これら債権者らの行為は、当然ながら組合の承認はなく、また、その内容からみても正当な組合活動とはいえない違法なものであることは明らかである。
3 よって、債務者はその都度債権者らに対し、違法な「ビラ」の配布及び掲示の中止を求めたが、これに対し債権者らは一般従業員の前で大声で怒鳴り返したりして抵抗し、あるいは同志多数を動員するぞなどと高言して威圧を加えたりして、中止するどころかかえって言動は一層活発化する傾向をたどって来たのである。
4 ところで、債権者らが最近約一年間位の期間中に配布及び掲示した「ビラ」の主なものを摘出してみると次の通りである。
記
(一) 57・2・1付、債務者と組合を非難、中傷、誹謗している。
(二) 57・2・16付、フクニチつぶしを許さない。身売り、地場財界のフクニチ見放し、頭山(注、債務者現社長)フクニチ乗取り。
(三) 57・2・24付、組合ニュース、「強くする会」が、悪質な「ビラ」を配布し、また債務者の従業員の娘さんにフクニチはつぶれるんじゃないの……と悪質宣伝をしている。
なお、記事は組合の承認していないことを証明する。
(四) 57・2・24付、債務者は、社内報をもって従業員に対し悪質な「デマ」に惑わされないこと、行為者に中止するよう警告したものである。
(五) 57・2・26付、債権者らは、組合の分派行動を採っていること、債務者と組合の警告に対し逆に反発し、さらに活動を拡大してゆくことを宣伝している。
(六) 57・4・20付、債権者らの「ビラ」無断掲示及び「強くする会」の代表が北村であることの証明。
(七) 57・5・13付、債務者と組合を非難、中傷、誹謗している。
5 債権者らの行為の違法性
前記「ビラ」の配布及び掲示は作成の都度双方を行っている。その行為はいずれも就業時間内であり、掲示は所定の掲示場所(組合との協定で食堂内の一定の場所が決められている)以外の場所において無断で行われている。これは労働協約に違反していることは明らかである。
「ビラ」の掲載内容及び債権者らの行為は、正当な組合活動に基づくものでなく、いずれも債務者(組合も含む)を非難、攻撃、中傷、誹謗し、名誉、信用を毀損し、社内の規律秩序を乱すものである。
これらの諸行為は、就業規則四条、五条(五号)、一六条、八九条(四号、七号)に違反することは明かである。
三 債権者らに対する本件各処分の合法性
債権者らの前記違法行為に基づき債務者は労働協約及び就業規則に準拠して、左記手続きを履行したうえ本件各処分をなした。
1 就業規則八一条以下により定められた賞罰委員会規定に基づき昭和五八年二月八日賞罰委員五名による同委員会が設置され、翌九日同委員会を開催し、その結果を答申書をもって報告した。それに基づいて債務者は同日債権者ら二名と小野晋の三名に対し、「懲戒休職三か月」の処分を決定した。
2 そして、二月一〇日債務者は組合に対し、本件各処分をする旨の予告通知をすると同時に処分すべき内容を社内報を所定の場所に掲示し、かつ一般従業員(債権者らを含む)にも交付した(右通知及び社内報は債権者らを処分した二月一八日の一週間前であり、労働協約に抵触しないことは明かである)。さらに、本件処分問題につき二月一四日に債務者は組合と団交を開き討議しているのである。
3 右諸手続きを経由したうえ、二月一七日債務者は念のため債権者らに対し、処分内容と処分後は本件同様の違法行為を繰返さないよう警告した。そのうえで、二月一八日債務者は債権者らに対し、本件各処分の辞令を交付し、社内報をもって本件処分人事を発令したことを所定の場所に掲示した。さらに債権者らの平素の言動を考慮し念のために債権者らに内容証明郵便をもって本件処分内容を通知したのである。
以上の諸経過によってみても本件各処分に手続上の違法は何等存在せず合法であることは明らかである。
四 債権者らに対する本件各処分に関して、債務者に不当労働行為は存在しない。
1 債権者らは、債務者に不当労働行為のあることを述べているが、その記載内容(申請の理由三の2の(一)ないし(四))はいずれも本件各処分の原因事実に無関係の事実が述べられていることは、処分理由と右記載内容とを対照すればおのずから明らかであろう。
2 また、債権者らは懲戒権の濫用というが、前記本件各処分の合法性で述べているように、債務者はすべて正当かつ合法的な手続きによっているので、違法性も権利の濫用もない。従って理由はないものといえる。
3 債権者らは、「強くする会」の活動は正当な労働運動でありまた組合活動であるかのように主張するが、「ビラ」を対照してみれば明らかであるように、(イ)同会の連絡電話番号は債務者及び組合とは全く無関係のものである。(ロ)組合ニュース(組合の発行するもの)の記載からでも判明するように、「強くする会」及び「ビラ」の配布及び掲示は組合の認知しない組合とは全く無関係のものである。(ハ)記載内容は、組合の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上に関するものではなく、債務者(あるいは組合)をもっぱら非難、攻撃、中傷、誹謗することを連日反覆して行っているのである。それは正常な組合活動と解することは到底不可能である。(ニ)従って、債権者らの行動及び「強くする会」の存在の実体並びにその目的は依然として不明であり、これを常識的に把握することも困難であるばかりか、「ビラ」の配布及び掲示が違法なものであることは議論の余地はないものといわなければならない。
五 従って、債務者のなした債権者らに対する本件懲戒休職処分は合法的かつ有効に存在するから、債権者らの本件申請は理由がないので却下せられるを至当とする。